FIX APIってなんぞや
FIXプロトコルとFIX API
FIXはFinancial Information eXchangeの略で、電子的な金融取引に使われるプロトコルです。もとは株式取引に使われていたようですが、いまや為替取引でも事実上標準のプロトコルと言われています。
もともと銀行間など大口取引で使われていたプロトコルなので個人トレーダーにとってはあまりなじみがありませんでしたが、最近では個人でもこのFIXプロトコルで取引ができるFIX APIを提供してる証券会社も出てきているのです。
国内でもOANDA、デューカスコピー、サクソバンクなどの大手証券会社でも提供されており、だんだんと身近に・・・とか書きながら調べてたんですが、以前提供してたはずのYJFXはなくなってますし、サクソバンクは使用のハードルが高そうですし、OANDAも一応あるものの現在はREST API推しみたい・・・身近どころか、前より遠ざかってる気すらしてきました。
・・・ま、まぁとにかくあまりメジャーじゃないにしても、個人でもインターバンクで使われてるのと同じプロトコルで気軽に電子取引できる時代になってきたというのはすごいですよね、うん。(グダグダ)
いろんなFIX API
FIX APIとか呼んでると、「そうか!『FIX API』っての使ってトレードソフトを作ればFIX対応サーバー相手ならどこでも取引できるソフトができるんだな!」と思ってしまうかもしれませんが、少し違います。
というのも一口にFIX APIと言っても各社少しずつ仕様が異なるのです。例えばOANDAであればOANDA FIXなんて名前で、OANDAサーバーとやりとりするためのFIX APIになっており、そのための仕様説明書があったりします。(参考:OANDA FIX 仕様書)
FIXプロトコルに準拠している以上、大枠の決まりごとは同じなのですが、そこに定められてても、「うちはこれは対応してない」とか「プロトコルにない機能使えるように拡張する」とかなんやかんやあって少しずつ違ってくるわけです。
もちろん大枠は同じなのでうまく作ればいろんなFIX対応サーバーで取引可能なソフトを作ることは可能でしょうが、基本的にはFIX APIでトレードソフトを作るならどこのFIX API基準で作るかは意識したほうがいいと思います。
FIX APIのいいところ
FIX 自体は単なるプロトコルなので、プログラム言語の縛りなくトレードソフトの開発が可能です。
たとえばシステムトレードをやりたい場合、メジャーなやり方ですと、MQLでEA作ってMT4/5で動かすか、C#でcBot作ってcTraderで動かすか・・・などと、プラットフォームと言語の縛りはどうしても避けられません。
しかし、FIX APIであればプログラム言語は自由ですし、プラットフォームにも縛られることはありません。自分の得意な言語で好きにチャレンジできるというのはメリットかもしれません。
まぁ、実際はFIX APIのみでシステムトレードというのは現実的ではないですし、FIX APIの使い方学ぶくらいなら MQLかC#を勉強したほうが早いような気はしますけど・・・
しかし世界標準のプロトコルで市場に注文を出せるというところに魅力を感じる方もいるのではないでしょうか。ここではそんな人のために簡単にFIX APIの使い方を説明したいと思います。
なお、ajinoriもわかってない部分も多いため、変なとこあったらツッコミお願いいたします。
FIX APIの基本的な仕組み
決まった形式のメッセージをやり取りする
仕組み自体は特に複雑なものでもなく、こんなメッセージをバイト配列でサーバーとやり取りするだけです。(下記で | で表してる区切り文字は実際にはSOH文字が使われます。)
8=FIX.4.4 | 9=133 | 35=A | 49=fixserver.10101010 | 56=CSERVER | 57=TRADE | 50=TRADE | 34=1 | 52=20210416-02:21:25 | 98=0 | 108=30 | 553=10101010 | 554=password | 10=008 |
これだけだともはや暗号にしか見えないと思いますが、ちゃんと決められた形式通りに情報が並んでます。ざっくり説明するとこんな感じ。画像が見づらくてゴメンナサイ。
headerにはメッセージの基本情報が入ってます。メッセージの種類(メッセージタイプ)や送り主送り先、時間など。headerの構造はメッセージタイプによらず基本同じです。
bodyには情報本体が入っており、メッセージタイプ(headerの35タグ)によって構造が変わります。Trailerはチェックサムが入るだけ。なんかIPパケットみたいな感じですよね。
それぞれ一つ一つの情報は |タグ番号=内容|という形で表されており、タグ番号を見ればそれが何を表しているかはわかるようになってます。
例としてheader各タグの意味は次の通り。
8 | BeginString | 必須 | FIXプロトコルのバージョン |
9 | BodyLength | 必須 | メッセージの長さ |
35 | MsgType | 必須 | メッセージの種類 |
49 | SenderCompID | 必須 | 送り主。ブローカーIDと口座番号を含みます。 |
56 | TargetCompID | 必須 | 送り先。メッセージを受け取るサーバーです。 |
57 | TargetSubID | 必須 | 送り先追加情報 |
50 | SenderSubID | 送り主追加情報 | |
34 | MsgSeqNum | 必須 | メッセージの番号 |
52 | SendingTime | 必須 | 送信時間。日時は上記の形式で記載します。 |
35タグの示すメッセージの種類は以下のようなものがあります。
0 | Heartbeat | セッション維持のための信号 |
A | Logon | ログオン |
5 | Logout | ログアウト |
2 | Resend | メッセージ再送要求。 |
V | MarketDataRequest | 価格など市場情報要求。 |
W | MarketDataSnapshot/FullReflesh | Vの返信。全部入り。 |
X | MarketDataIncrementalRefresh | Vの返信。差分のみ。 |
D | New Order Single | 注文。 |
ちなみにこれはほんの一部です。メッセージの種類は全部で100種類近く、タグの種類は1000種類近くあります。詳しく知りたい方はこちらの公式ページをご覧ください。
もちろんちょっと使ってみるだけなら全部覚える必要などありませんし、私もさっぱりわかってません。
プログラムでメッセージを作ってサーバーに送り付ける
実際の使い方はというと、上記のメッセージをプログラム内で生成したら、普通にSSL通信でも使ってサーバーに送り付けるだけです。
ここでいうFIXプロトコルはアプリケーションレイヤーのプロトコルなので、メッセージさえアプリケーション内で作ってしまえば、あとは既存の通信方法で普通に送ればいいのです。
利用の流れとしては、
1.最初にログオンメッセージを送る→ログオンの返信を受けてセッション確立
2.定期的にHeartbeatメッセージを送ってセッションを維持しながら、価格取得なり注文なりやりたいことする
3.終わったらログアウトメッセージを送って終了
メッセージ作るときの注意点としては、ヘッダーにいれる34番タグのメッセージ番号は必ず連番でふるようにします。
番号飛ばしてメッセージ送るとサーバーからResendメッセージが返ってきて、間の番号のメッセージ送るよう要求されてしまいます。
返信のメッセージタイプも決まってる
メッセージを送ると、サーバーからも上記の形のメッセージが返信でやって来ます。送ったメッセージの種類に応じて、どんな返信が来るかも決まっています。
例えばクライアント(こちら側)からサーバーにログオンメッセージ("35=A")を送ったら、サーバーからはログオン成功ならログオンメッセージ("35=A")が返ってきますし、失敗ならログアウトメッセージ("35=5")が返ってくる、といった形です。
受け取った返信内容を読み取って成否判定をしたり、処理をしたりすればいいのです。
cTraderでFIX API
やっとここまできました。本題です。cTraderでFIX API使ってみようぜ!的な話です。
cTrader FIX API
実はcTraderアカウントをお持ちであればだれでもFIX APIを使うことができます。FIX APIを使って、cTrader口座で取引をすることができるのです。
この場合はcTrader 用のFIX APIを使ってcTraderサーバーとやりとりする形になりますので、ブローカーごとに仕様が異なるということはありません。参考までにcTrader FIX APIの仕様書はこちらです。
cTrader FIX APIでできること
現在の価格や板情報などの市場情報をとったり、各種注文出したり、ポジション確認したりということができます。逆に言うとそれくらいしかできません。
口座情報を取得したり、過去の価格情報を参照したりといったことは一切できません。もともとFIX API自体がそんなに多機能ではないんですよね。
なのでFIX APIを使ってシステムトレードをする場合は別のAPIを組み合わせて使うことが多いようです。cTraderだとOpenAPI2.0というのが用意されてます。
cTrader FIX APIを使ってみよう
クライアントソフトを用意する
さて、せっかくですからFIX APIで注文でもしてみましょうか。
FIX APIで特定シンボルの価格を取得して、ボタン押したら最低単位で注文するだけのテスト用cBotを用意しました。ソースコード付きです。
ダウンロード後、ダブルクリックでcTraderにインストールしてください。
ちなみにAccessRight.FullAccessが必要なため、起動時に警告が出ます。不安であれば実行は控えてください。興味があればソースコード読んで理解してから実行すればいいと思います。
なお、cTraderの開発元SpotWare社が公開してるFIX-API-Sampleを参考に作りました。こちらはWindows Form のアプリケーションです。ちゃんと学びたいならこちらのソースコードの方が勉強にはなるかもしれません。
接続情報を確認する
まずcTraderの場合、設定メニューの一番下にFIX APIという項目があるので、ここを開いてください。
接続のためのパスワードが必要になるため、ChangePasswordを押して適当なパスワードを設定してください。
接続情報を設定する
それぞれの項目をcBotの同名パラメータにコピペしてください。PriceConnectionとTradeConnectionはどっちでもいいです。一番下のSenderSubID以外は同じ値だと思います。(違う方いたらコメントください。cBot修正しないと動きません。)
起動してみる
正しくパラメータが設定されていればcBotを起動すると、チャート真ん中下部分にBidとAskの価格情報とSellBuyのボタンが現れます。(価格情報がcTraderと微妙に一致しないのが謎なのですが・・・何かプログラム間違ってるのかも。誰か理由わかる方いたら教えてください。)
ボタンを押すと最低発注単位で注文が入ります。本当にポジション持ってしまうのでライブ口座の接続情報を使う場合はご注意ください。cBot動かしてるのがデモ口座だろうが、バックテスト環境だろうが関係ありません。接続情報がライブ口座ならその口座に本当に注文が入ります。
cTraderからポジション情報を見るとチャネルの部分に"FIX"と表示されているのがわかると思います。
また、(価格取得以外の)FIXメッセージを送信受信ともにログに表示させるようにしてあります。トレードウォッチのcBotタブでどんなメッセージが飛んでるか確認してみてください。
ソースコードいじって遊んでみる
たぶんここまで読んでくれてる方は少なからずプログラムにかかわっている方だと思います。是非ソースコードいじってみていろいろ試してみてください。コメント多めに入れてあるので見ればなんとなくわかる部分も多いはずです。
今回はUI作るのが面倒だったのでcBotの形にしましたが、cBotである必要はまったくありません。プログラムのFIX通信部分はcBotを起動させたcTraderからは完全に独立してます。
例えばAxioryのcTraderで起動させていても、パラメータさえTradeView口座の情報で設定すればTradeView口座に注文できます。Indicatorに組み込めばIndicatorから発注させるなんてこともできちゃいます。
FIX通信クラスにcAlgoの機能は一切使ってませんので、コード中のFixApiBaseクラスとサブクラス丸ごと自作アプリに移植すれば自作アプリからでも発注が可能です。
あ、一般的な例外処理とかエラー処理とかもろもろ省いちゃってるので、もし実際使えるレベルまで改造してみたいならその辺も追加してくださいね。
あくまで勉強用として
いないと思いますが、本格的にFIX APIで開発を始めたいという方はこれをベースにするのはお勧めしません。
FIX APIでトレードソフトを作るのであれば、おそらくQuickFIXなどのライブラリを使って開発をする方が一般的だと思います。
あくまでFIX APIの勉強用プログラムとしてご利用ください。
疲れた
「ちょっとやってみようかな」のノリで始めたわりには、思った以上に手間をかけてしまいました。
今回はじめてFIX APIを使ったプログラムを作ってみたのですが、作ってみた感想としては・・・あえてこれ使わなくてもcAlgoでいいかなぁ、と。
「いやいや、お前はFIXが全然わかってない!」とか「FIX APIはこんなにすごいんだぞ!」とかありましたらコメントお待ちしています。